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05 Jan 2015 10:56

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【中高生のための国民の憲法講座】第78講 環境権は政治の力で 池田実先生

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【中高生のための国民の憲法講座】
第78講 環境権は政治の力で 池田実先生

憲法に書いてあるだけでは実現できないものがあります

 第77講に引き続き、現行憲法に規定のない「新しい人権」について考えてみましょう。今回は「知る権利」と「環境権」です。

 人権のなかには、憲法にそれが書いてあるだけでは実現できないものがあります。たとえば、社会権の中心をなす生存権(=健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)は、国家が生活困窮者を救済する施策を講じなければ実現できません。そのため憲法25条2項は、国家に「社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と命じています。

 書かれているだけでは

 しかし憲法は、権利を実現する努力を国家に求めてはいるものの、やるべきことを具体的に特定しているわけではありません。生活保護などの制度を法律で定める役割は立法府に、その法律に基づき、国民経済や国家財政の状況をふまえて生活困窮者への給付を実行する役割は行政府に、それぞれ委ねられています。

 国会や内閣がしっかり働かなければ、国民の生存権を確保することはできません。社会権の実現には「政治の力」が必要であり、人権条項以上に重要なのは、「政治の力」を生かせる統治機構を定めることです。

 世界に先駆けて社会権を定めたワイマール憲法(1919年)の下のドイツでは、政権不安定のため効果的な社会・経済政策を実行できず、それがナチス台頭の原因にもなりました。その反省に立ち、戦後の(西)ドイツ基本法(憲法)は、社会権条項を書き並べることよりも、安定した政権運営と効率的な立法・行政を可能にする統治機構の確立を重視し、そのおかげで戦後のドイツは名実ともに社会国家となりました。

 「しっかり働く政府」

 新しい人権のひとつ「知る権利」の実現には、国民の知りたい情報を政府に開示させる制度が必要です。日本では情報公開法が制定・施行されていますので、憲法の明文規定はなくても、「知る権利」はすでに保障されているといえます。

 産経新聞社『国民の憲法』要綱は、社会権としての「環境権」条項の新設を提案しています。楽に流れやすい個々人の努力に任せるだけでは、環境は悪くなる一方ですから、「地球にやさしい」=「人間にきびしい」環境保全施策を講じる役割は、国家が担わなければなりません。そのために要綱は、単に「環境権」を謳(うた)うだけでなく、衆議院での法律案再可決要件を緩和して「ねじれ国会」による立法の停滞を防いだり、首相のリーダーシップを強化して、「しっかり働く政府」の構築をめざしています。社会権的な性質をもつ人権の実現には「政治の力」が必要なことをよくわきまえた改憲案といえます。

 近年、立憲主義について、権力「制限」の側面のみを強調する言説が目立ちます。が、一方で国民の福利の向上・増進を望みつつ、他方で権力を縛ることばかり主張するのは矛盾です。社会国家や「新しい人権」の実現には、安定政権の樹立を可能にする統治機構と、政治部門の国家権力(立法権・行政権)の積極的な「活用」が不可欠なのです。

                   

【プロフィル】池田実

 いけだ・みのる 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。山梨大学講師・助教授、日本大学助教授・准教授を経て、現在、日本大学法学部教授。専攻は憲法学、憲法政治学。『憲法』『スペイン憲法概要』「新憲法への構想」など著書・論文多数。53歳。

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