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2014.02.12
iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察
京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥

 STAP細胞およびSTAP幹細胞(注)は小保方晴子研究ユニットリーダー(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)という若い力が生み出した素晴らしい成果です。私たちも研究に取り入れて行きたいですし、今後の発展を期待しております。また、iPS細胞の研究開発で得られたノウハウが蓄積しており、最大限の協力を行いたいと考えております。
 iPS細胞に関して、一般の方のご理解と現状との間には、必ずしも正しい情報が共有されていないように思います。そこで、iPS細胞の現状についてご紹介するとともに、これまでのiPS細胞研究の経験を踏まえたSTAP幹細胞に関する考察を行いました。

(注)項目2のSTAP細胞とSTAP幹細胞の違いの説明部分をご参照ください。

 
1. iPS細胞におけるがん化リスクの克服とSTAP幹細胞における安全性の現状

 2006年に発表した最初のiPS細胞においては、樹立にレトロウイルスという染色体に取り込まれる遺伝子導入方法を用い、またc-Mycという発がんに関連する遺伝子を使っていました。しかし、最新の再生医療用iPS細胞の樹立においては、
1)遺伝子が一時的に発現し、染色体には取り込まれず消える方法に変更
2)c-Mycは発がん性のない因子で置き換える
という2つの工夫によって、大幅にリスクを低減させました。この方法によるiPS細胞の安全性は動物実験で十分に確認されています。その結果として、高橋政代先生(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)らのiPS細胞を用いた臨床研究が、厚生労働省において認可されるにいたりました。今後は臨床研究により、安全性の最終確認を行っていきます。
 一方で、STAP幹細胞においては、半数以上の細胞が死滅するようなストレスが細胞にかかることもあり、細胞内における遺伝子の状態がどうなっているか、まだ十分にはわかっていません。そのため、安全性については、人間の細胞でSTAP幹細胞が樹立された後に、動物実験等で十分に検証される必要があります。



2. iPS細胞の誘導効率の大幅改善とSTAP幹細胞の誘導効率の現状


 マウスiPS細胞の作製を発表した2006年の段階では、確かに誘導効率は約0.1%でしたが、2009年には20%まで上昇させることに成功し、山中グループが科学誌 Nature(Hong et al.)に報告しています。また、昨年、イスラエルのグループが因子導入後、7日間ですべての細胞をiPS細胞にしたことをやはりNature(Rais et al.)に報告しています。
 STAP細胞とSTAP幹細胞の違いについても正確にご理解ください。細胞にストレスをかけてまずできるのはSTAP細胞です。「幹細胞」というものは、多様な細胞へと分化する能力(多能性)と、自らと同じ能力の細胞へと分裂し続けられる能力(増殖能)を持たなければなりません。STAP細胞は多能性を持ちますが、増殖できない細胞です。基礎科学の観点では極めて興味深い細胞ですが、再生医療や創薬という医療応用の観点からは、そのままでは活用しにくいものです。論文によれば、STAP細胞を特殊な培地で培養することで一部の細胞が増殖する能力を獲得し、多能性と増殖能を併せ持つSTAP幹細胞へと変化します。iPS細胞やES細胞は多能性と増殖能を持つ「幹細胞」ですので、比較すべきはSTAP細胞ではなく、STAP幹細胞です。論文の記載によると分化細胞からSTAP細胞へ誘導すると、およそ8割の細胞が死滅し、生き残った細胞のうちの3分の1から2分の1が、つまり元の分化細胞の約10%がSTAP細胞と考えられます。さらに、STAP細胞からSTAP幹細胞への変換効率は10回に1、2回とあります。
 また項目3で説明するように、医療応用面から考えるとこのような単純な数字の比較はあまり意味がなく、再現性や互換性の検討が重要です。


3. iPS細胞が世界中に普及した背景とSTAP幹細胞の普及に向けた課題

 iPS細胞は極めて再現性の高い技術です。すでに世界中で何百という研究グループによって作られています。また特殊な疾患の患者さんを除いては、年齢を問わず、どんな方の細胞からも作ることができることが実証されています。
 また、iPS細胞は互換性の高い技術です。ES細胞と同じ方法で培養や分化誘導ができるため、30年を越える伝統があり、世界中に大勢いるES細胞の研究者が、すぐにiPS細胞の研究を開始できました。iPS細胞に高い再現性と互換性があることは、この技術が世界中で急速に普及した原動力となりました。
 他の多能性幹細胞技術(例えば、MAPC細胞; Jiang et al., Nature 2002)は、当時、大きなニュースとなりましたが、再現性と互換性が十分ではなく普及しませんでした。STAP幹細胞についても、広く普及するには再現性や互換性の検証が重要な課題になります。
 特に、互換性は重要で、ES細胞やiPS細胞でこれまでに積み重ねられた研究成果を利用することができず、臨床研究や治験で必要なプロトコールをすべて作り直すことになった場合は、大変な労力と費用がかかります。
 さらに技術普及のためには知財も重要なポイントです。iPS細胞技術に関しては、京都大学の基本特許が日米欧を含む28か国1地域で成立しており、日本発の技術として国際的にも確固たる地位を築いています。STAP幹細胞技術についても、知財の行方を見届ける必要があります。


まとめ

 ヒトiPS細胞技術は、高い再現性と過去の研究成果との互換性を有する技術であり、安全性や有効性においても臨床研究での最終確認を待つ段階にあります。また知財の面からも我が国が優位な立場にあります。STAP幹細胞技術も、人間の細胞で達成された後に、再現性、互換性、安全性、知財について検証される必要があります。
 STAP細胞は、細胞の初期化メカニズムに迫る上で、極めて有用です。またSTAP細胞は未来の医療、たとえば移植に頼らない体内での臓器の再生、失われた四肢の再生などにつながる大きな可能性のある技術です。iPS細胞研究所でも研究に取り入れて行きたいですし、理化学研究所等、他の研究機関と最大限に協力して、技術の発展に貢献していきたいと思います。


参考動画
テレビ朝日「報道STATION」>特集>2月7日「iPS細胞」生みの親、山中伸弥教授に聞く


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