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 アイヌ民族初の国会議員だった故萱野(かやの)茂さんの言葉が忘れられない。「日本の民主主義は生きている」。1997年にアイヌ文化振興法が成立するにあたっての発言だ。ただ、この法律はあくまで第一歩だった▼アイヌの人々を「旧土人」と差別する法律はなくなった。次は日本の「先住民族」と認めよ。その願いは、2008年の国会決議に実る。翌年、政府の懇談会がまとめた報告書は、アイヌの文化を復興させる「強い責任」が国にはあると指摘した▼先住民族への差別や偏見を解消し、多民族がともに生きる社会をつくる。当然の目標だろう。安倍政権もこの6月、北海道にアイヌ文化振興の拠点をつくるべく閣議決定した。「民族共生の象徴となる空間」という位置づけだ▼こうした積み重ねは見当違いだったというのだろうか。「アイヌ民族なんて、いまはもういないんです」。札幌市議の一人がツイッターにそう書いた。後にブログに載せた説明を読むと、アイヌの人々への支援のあり方に異論があるらしい。とはいえ、もういないとは話が飛びすぎている▼市議はさらに、民族としてのアイヌは既に滅びたという記述を百科事典に見つけ、報道機関に注文した。よく勉強せよ、と。だが、百科事典は07年版で全面的に改稿していた。先の記述は差別を助長しかねないという理由だ▼政府の懇談会報告書に従えば、アイヌの人々と他の日本人との共生は「国の成り立ちにかかわる問題」である。手荒な議論にはなじまない。